2022.10.17
税制
所得税基本通達(雑所得の例示等)の一部改正について

国税庁は、このほど、「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募(パブリックコメント)の結果を公表しましたので、紹介します。
1.意見公募(パブリックコメント)の結果の公表内容は、次の通りです。
区 分 | 御意見の概要 | 御意見に対する国税庁の考え方 |
通達改正 の趣旨等 | ・ 今回の通達改正は、副業を推進する 政府の方針に逆行するものではない か。 ・ 事業所得と雑所得の区分は、実態を 見て判断すべきであり、形式的な基準 を設けるべきではない。 ・ 通達改正案は、過去の判例を無視し たものとなっているのではないか。 ・ 今回の通達は、従来の裁判例の考え と齟齬をきたすのではないか。 ・ 今回の通達改正は、増税ではないか。 | ・ 国税庁においては、シェアリングエ コノミー等の「新分野の経済活動」に ついて、適正申告のための環境づくり に努めており、今回の所得税基本通達 の改正も、その一環として実施したも のです。 ・ 今回の通達改正により、所得区分の 判定が明確化され、申告しやすい環境 が整備されることから、副業を推進す る政府の方針に逆行するものではない と考えています。 ・ また、今回の通達改正では、「その 所得を得るための活動が、社会通念上 事業と称するに至る程度で行っている かどうかにより判定する」ことを原則 としつつ、社会通念での判定で事業所 得に該当しない場合を明らかにしたも のです。 ・ したがって、事業所得又は業務に係 る雑所得に対する従来からの考え方に 変更を加えるものではありませんの で、税負担額が変更されるものではな いと考えています。 |
主たる所得か否かを基準とすることについて | ・ どのような所得が主たる所得に該当 するのか不明確である。 ・ 本業か副業かで所得区分を判断すべ きではない。 ・ フリーランスの場合は、契約形態に よって所得区分が分かれる場合がある が、この場合、主たる所得はどうなる のか。 ・ 会社を辞めずに起業した者は、給与 所得を得つつ、事業収入が300万円を 超えない場合が多いが、こうした者も 業務に係る雑所得に区分されるのか。 ・ 真面目に記帳等をしている者は、収 入金額300万円以下の副業であっても 事業所得と取り扱うべきではないか。 ・ 今回の通達改正により、記帳・帳簿 書類の保存を行っていた者が、記帳・ 帳簿書類の保存を行わなくなるのでは ないか。 ・ 開業届が提出されているのであれ ば、副業であっても、事業所得と取り 扱うべきである。 | ・ 事業所得と業務に係る雑所得の所得 区分の判定については、パブリックコ メントにおける御意見を踏まえ、主た る所得かどうかで判定するという取扱 いではなく、所得税法上、事業所得者 には、帳簿書類の保存が義務づけられ ている点に鑑み、帳簿書類の保存の有 無で所得区分を判定することとし、通 達を別添のとおり修正いたしました。 ・ この修正により、収入金額が300万円 以下であっても、帳簿書類の保存があ れば、原則として、事業所得に区分さ れることとなります。 |
収入金額を基準に採用することについて | ・ 収入金額は業種によって差がでるこ とから、所得金額を基準とすべきであ る。 | ・ 事業所得と業務に係る雑所得の区分 は、従来から、その所得を得るための 活動が、事業的規模で行われているか どうかを社会通念で判定すると取り扱 っています。 ・ 所得を得る活動の規模に関する基準 については、所得税法や消費税法の規 定を踏まえると、収入金額が適当であ ると考えています。 |
300万円を基準に採用することについて | ・ 通達では収入金額300万円以下の者に ついて雑所得と取り扱うこととしてい るが、300万円という基準の根拠が不 明である。 ・ 事業所得と業務に係る雑所得の判定 について、収入金額300万円は大きす ぎる。 | ・ 令和2年度の税制改正においては、 業務に係る雑所得について、前々年の 収入金額が300万円を超える場合に は、取引に関する書類の保存を義務づ ける改正が行われたところです。 ・ 今回の所得税基本通達の改正は、上 記の改正において、収入金額300万円 以下の小規模な業務を営む方について は、取引に関する書類の保存を求めな いこととされたことを踏まえ、収入金 額300万円を基準としたところです。 |
反証について | ・ 反証の範囲や内容が不明確である。 ・ 帳簿書類の保存がある場合は、反証 となるのか。 | ・ 所得税法上、事業所得者には、帳簿 書類の保存が義務づけられているとこ ろ、一般に帳簿書類の保存がある場合 には、営利性や有償性、継続性や反復 性、自己の危険と計算における企画遂 行性があると考えられることから、反 証に代えて、帳簿書類の保存がある場 合には、原則として、事業所得に区分 することとし、別添のとおり通達を修 正いたしました。 |
施行時期について | ・ 今回の通達改正の適用時期を遅らせ てほしい。 ・ 令和4年分の確定申告からの適用は 遡及適用ではないか。 ・ 改正通達の周知のため、令和4年分 からの適用を見合わせるべきではない か。 | ・ 今回の通達改正は、所得区分に関す るものであり、所得区分は確定申告書 の提出の際に判断するものであること から、遡及適用には当たらず、所得税 法上、事業所得者には、記帳・帳簿書 類の保存が義務付けられていることを 踏まえれば、令和4年分の確定申告か ら適用したとしても、納税者に影響を 及ぼすとは考えていません。 ・ なお、国税庁においては、近年、シ ェアリングエコノミー等の「新分野の 経済活動」について、適正申告のため の環境づくりに努めており、今回の所 得税基本通達の改正も、その一環とし て実施したものです。国税庁として は、本通達を令和4年分の確定申告か ら適用する必要があると考えており、 納税者の方が混乱しないよう適切な周 知を行ってまいります。 |
(参考)今回の意見公募手続に付した「『所得税基本通達の制定について』(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について」の改正内容に関する御意見のみ掲載しております。
なお、「御意見の概要」欄は、重複した御意見を取りまとめた上で、要約したものを掲載しております。
2.国税庁では、上記パブリックコメントを踏まえて、所得税基本通達の一部改正(案)を次のように修正し、令和4年10月7日に公表しました。
修 正 後 | 修 正 前 |
(その他雑所得の例示) 35-1 次に掲げるようなものに係る所得は、その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)に該当する。 (1)~(12) 省 略 | (その他雑所得の例示) 35-1 次に掲げるようなものに係る所得は、その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)に該当する。 (1)~(12) 同 左 |
(業務に係る雑所得の例示) 35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。 (1)~(8) 省 略 (注)事業所得と認められるかどうかは、そ の所得を得るための活動が、社会通念上事 業と称するに至る程度で行っているかどう かで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳 簿書類の保存がない場合(その所得に係る 収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得 と認められる事実がある場合を除く。)に は、業務に係る雑所得(資産(山林を除 く。)の譲渡から生ずる所得については、 譲渡所得又はその他雑所得)に該当するこ とに留意する。 | (業務に係る雑所得の例示) 35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。 (1)~(8) 同 左 (注)事業所得と業務に係る雑所得の判定 は、その所得を得るための活動が、社会通 念上事業と称するに至る程度で行っている かどうかで判定するのであるが、その所得 がその者の主たる所得でなく、かつ、その 所得に係る収入金額が300万円を超えない場 合には、特に反証のない限り、業務に係る 雑所得と取り扱って差し支えない。 |
出典:TKC税務研究所
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